
agile42というサイトで紹介されている「The Kanban Pizza Game」を日本語に訳してみました。ライセンスはCreative Commons Attribution-Share Alike 3.0 Licenseになります。カンバンシステムの全体像を学べ、既存のプロセスに適用させる方法といった実践的な学びを得られそうです。
以下が意訳です。原文はThe Kanban Pizza Gameです。
カンバン・ピザ・ゲーム
講演によってリーンやアジャイルの原則を簡単に伝えることは難しいものです。通常は「どうやったらうまくいくか」を感じとるために、自分たち自身の状況で原則を経験しなければならないからです。そこでゲームが登場します。ゲームであれば、やっかいな日々の仕事や詳細な技術に夢中になることなく経験を手に入れることができます。トレーニングで広範囲のゲームやシミュレーションをするのはそのためなのです。しかし、目的にふさわしいゲームがない場合、「カンバン・ピザゲーム」のように新しく作らなければなりません!
agile42のカンバン・ピザゲームによって、カンバンがどんなものかを理解することができます。他のカンバンゲームは、たいていボードのメカニズムや既存のカンバンシステムの流れだけに注目していますが、カンバン・ピザゲームでは既存のプロセスをカンバンシステムへと導く方法を学べます。
紙とピザを使って
agile42の「スクラム・レゴシティゲーム」のように、誰もが知っていて、誰でもできることをベースにゲームを作りたいと思いました。IT系のシナリオを採用しなかったのは、参加者が自分たちの現在の仕事環境を、過度に意識しなくていいからです。紙のピザを使うというアイデアだととても楽しめるはずです。だって、みんなピザが好きでしょうし、みんなピザの作り方を知っているからです(すくなくとも言葉ぐらいは知ってますよね)。
どんなときに?どうやってカンバン・ピザゲームをするか?
カンバンとは何か? 日々の仕事以外の安全な環境においてリーンのコンセプトとなるプラクティスとは何か? そういう人のためにカンバン・ピザゲームはうってつけです。
目的を知る
トレーニングという視点から見たゲームのゴールは何でしょう? 参加者は以下の体験ができます。
- 既存のプロセスからどうやってカンバンシステムを明確にするかを体験できます(現実社会でも応用可能です)。
- カンバンシステム全体を体験できます(ボードや関係するメカニズムだけを学ぶわけではありません)。
- ボードがコンテキストに依存するということを理解できます。いかなるプロセスにおいて、たくさんの異なったボードの形があり、そうなった理由があります。そして、それぞれ便利でしょう。最上のボードはひとつである必要がありません。
- WIP制限の効果を理解できます。
- 自己組織化や適用方法を体験できます。
- ゲームを楽しめるでしょう!
それぞれのチームは異なった色の紙と、はさみやその他の材料を使います(全材料の一覧はこのページの下側にあります)。与えられたピザスライスのレシピにそって、いろんな形やテープ状に切ったりしていきます。
準備

- スライドはこちらにあります。ゲームの始めから終わりまでを説明する資料です。
- 十分な量の材料を用意してください!
- 少なくとも1チーム4名になってください。
- 1チームでもゲーム可能です。しかし、より多いチームだとちょっとした競争が生まれるのでより楽しめるはずです。
- チームの人数がばらけるときは、オブザーバーを募ることを検討してください。そうすることでゲームの品質を確保でき、リードタイムの測定も楽になります(オプション)。
ゲームの流れ
1. 潜在プロセスを作る

カンバンは常に既存のプロセスから現在の状況を知ることからはじめます。ゲームのはじまりでは紙の材料や制約をふまえて、ピザスライス(ハワイアンピザ)を可能な限りたくさん作ってもらいます。
既成品のピザスライスをチームに見せて、何が乗っかっているかを説明します。たとえば、ピザスライスのベース生地(三角の紙)、トマトソース(赤い印)、3つのハム(ピンクの付箋)、パイナップルスライス(黄色い付箋)といったものです。トマトソースがかかっているのはいいですね。トッピングはちゃんと分散するように注意したほうがよさそうです。うん、美味しそうだ!(訳注1)
オーブンのプレートを見せて、どう使うかを説明しましょう。オーブンには一度に3スライスのピザを置けます。調理時間は少なくとも30秒です。ピザを焼いている最中は追加したり削除することはできません!(訳注2)
それからチームに、やっている間はムダを避けながら、可能な限りピザをたくさん作るように第一ラウンドをはじめます。ナマの材料は準備はできても使えません。時間(5分から7分後ぐらい)に手をたたき、作業を止めさせます。(訳注3)
- 訳注1:トッピングの個数もちゃんと伝える
- 訳注2:この時点でオーブンを作ってもらう。3個置ける領域
- 訳注3:各ラウンドの時間は固定。時間は教えない
2. カンバンの紹介
はじめのラウンドが終わったら、カンバンとその核となるプラクティスを紹介しましょう。
カンバンのコアプラクティスは以下です。
- ワークフローを可視化する
- WIP制限する
- 流れを管理する
- フィードバックループを実現する
- 明確なプロセスポリシーを作る
- みんなで改善する

次に、スコアの仕組みを説明します。このゲームでは各チームが自分たちでスコアを計算していきます。スコアの仕組みはWIP制限を理解するために設計されています。そして、流れの測定を間接的に助けるためにもなっています(このゲームの場合、スコアはラウンドの正確な長さを知らない限りリードタイムと関係しています。そのため参加者は同じ条件でピザを作ることになります)。スコアを集め、ホワイトボードやフリップチャートにマトリクスとして書き出します。(訳注4)
- 訳注4:在庫はマイナス得点になる。完成したら10ポイント。詳しく書かれていないけど、ラウンドの最後に毎回スコアを付けるようだ

チームにワークフローを可視化してもらいます。そして、作り出す材料(ピザの生地やカットしたハムなど)の置き場所を紹介することによって、プロセスを明確にします。今はプロセスを最適化しないでください。最初のラウンドの間に最適な方法が浮かんでくるようにします。
チームにWIP制限をさせてください。材料は積み上がってましたか? それらの材料はラウンドの最後にムダになってませんでしたか? ある手順で最適なWIP制限は何でしょうか? また、他の手順ではどうでしょう?
ピザの品質はどうでしょう? チームは角っこを切ってますか(たぶん厳密に)? ピザの生地は同じサイズであるべきです。そして、トマトソースもちゃんと塗られてるべきです。さらにトッピングはきちんとカットされていて均一に分散しているべきです。
次のラウンドの前に、完成したピザを捨ててしまい、使っていないナマの材料をとっておきます。焼いていないピザもテーブルに残します。
3. 第二ラウンド目ではカンバンシステムを使う
では、新しくつくったカンバンシステムを使って1ラウンド実施します。ラウンドが終わるまでどんな指示もしてはなりません。そろそろ終わりかなと思ったら(5分から7分後ぐらい)、ラウンドを終わります。そして結果を訪ね、ポイントを計算します。
それから、チームに1分間与え、チームのカンバンシステムで何がうまくいって何がうまくいってないのかを訪ねます。そして、もう1分でワークフローを再構築します。チームにはそのワークフローで次のラウンドをやってもらい、異なったWIP制限を試すように伝えます。
4. 第三ラウンドはシステムを拡張する
カスタマーオーダーと新しいルッコラピザのレシピを紹介することにより、ゲームを少しだけ複雑にします。カスタマーオーダーはもう1スライスの別の種類のピザです。チームは、その注文が完了した時のみポイントを手に入れることができます。ルッコラピザは、ハムとパイナップルではなく、ロケットサラダ(緑の付箋)を7切れだけ載せたピザです。残念ながらロケットサラダは簡単に焼けてしまうので、オーブンからピザを取り出したあとにトッピングしてください。
何分か話しあう時間をチームに与え、各チームの仕組みを改善しましょう。その後、ラウンドを実行し、測定したポイントを集めます。チームに1分与えて彼らの仕組みで何がうまくいって何がうまくいかなかったかを考えてもらいます。そしてまたワークフローを再構築し、WIP制限を調整します。
4. 最終ラウンド
チームに話しあわせ仕組みを改善します。そして最終ラウンドを実行し、測定したポイントを集めます。
5. ゲームからリアルカンバンボードへ
ゲームの最後にプロセスを可視化します。現状はテープなどを貼りつけたテーブルがあるはずです。そこからリアルカンバンボードを作ってみましょう。

チームにゲームをふりかえってもらうため、流れをフリップチャートやホワイトボードに書いてもらいます(WIP制限も)。そして、紙の材料やゲーム中に作ったピザも貼りつけて見栄えを良くします。
6. 結果発表
カンバン・ピザゲームの経験を忘れないうちに、いくつか上手に作れたカンバンボードを見せていきます。ここまでくればカンバンのプラクティスを補足するのはとても簡単だと思います。
ワークフローを可視化する
ピザの物理的な生産において、ワークフローはつねに現在のものです。ワークフローを描くことで、現在のプロセスを反映するために使うことができるモデルを作ることができます。
ワークフローは多様な方法で表現できることを覚えておいてください。いくつかのピザはトッピングしてオーブンに運びますが、いくつかは違いました。これは、タグ、スイムレーン、直線ではないワークフロー、直接的なネットワーク、リズムやたくさんの方法を表現しています。ゲームの進行中、各チームはワークフローを作りました。それは各自のコンテキスト、リソース、ボトルネックを感覚として反映したものです。他のチームはボードを取り上げ、自分用にできますが、どんなボードであっても他の物より「より正しい』というわけではありません。
WIP制限する

ゲームを通して、キューに積み上げられたものが原因で本質的なボトルネックが発生します。これは故意にそうなってます。ゲーム中、チームはWIP制限を経験し、不必要な材料のためにポイントを失うのを避けるために正しい作り方に気がつきます。参加者はWIP制限がシンプルな制限であることを経験します。参加者は振る舞い方を改善し変更していくのです。参加者は必要になったときに、全体のピザ作成工程へとより相互に作用していき、よりコミュニケーションを取り、より協力していく傾向が出てきます。
流れを管理する
システムを通してよりスムーズに流れれば、カンバンは最高の状態で機能します。通常、測定やリードタイムの短縮化によって流れを加速しようとするでしょう。でも残念ながら、ファシリテーターからかなりの時間を奪うでしょう。そして、カンバン・ピザゲームにおけるスコアリングシステムは在庫を有罪にし、最適な流れの振る舞いに似たトリガーとなります。
ゲームの最初のラウンドでは、前もって小さな在庫を準備する傾向があります。その後のラウンドでチームは、在庫をおさえ、WIP制限により制限を維持することを学びます。
カンバン・ピザゲームにおける流れの測定はとても勉強になるでしょう。しかし、これをするためには協働のファシリテーターが必要だと思います。
その他、価値のある検討材料
物理的な環境において、テーブルの並び替えは初期のワークフローに影響を与えたでしょうか? ワークフローはそれにより進化しましたか?
グループの力学として、どうやっって異なったチームメンバーがワークフローの設計に参加しますか?
質問とその回答、Tipsや秘訣とか
使っていない材料を次のラウンドで使うことはできますか? できますか? 本来はそうすべきです。テーブルにある使っていないカットしたハムやパイナップル、ロケットサラダやピザ生地は、それぞれのラウンドでマイナスポイントになります。
なぜ大きなストップウォッチや正確に6分のラウンドじゃないんですか? もし、チームがどれぐらいの時間が経ったかを知っていたら、ムダを最小限にするために、時間より前にプロセスを急ごうとしはじめるはずです。ムダを最小限にするのはいいことですが、作業はまだ続いている間、チームにそれをしてもらいたいと思っています。
チームが別のオーブンについて質問します。別のオーブンを渡すべきですか? ダメです。それぞれのボトルネックを取り除くと、ワークフローが安定し(TOCを参考のこと)、新しいボトルネックが浮かび上がってくるのに時間がかかってしまいます。2〜3回繰り返し、ゲームを終わらせましょう。それでゲームの結果はどうなりましたか? チームは実際にチーム自身によってボトルネックを対処することを学んでません。その代わりに、ボトルネックを訴え、魔法のように取り除けたことを学んでしまいます。それは困る!
ゲームがとても遅いです。チームには終わらせるためのプレッシャーが必要です。 全部のチームは違いますし、目に見えているプレッシャーは必要悪です。ゲームによってそれが現れます。チームを一連の作業に押し込むのはやめましょう。何が起きたか気がついてください。よい振る舞いを親切に褒めましょう。望まれていない振る舞いを止めましょう。チームがベストを尽くしていないと感じるのであれば、チーム間でちょっとした競争をさせてみましょう。また、チームにリードタイムの測定や改善をうながすこともできます。
いくつかのチームはすごく速く作業して、きたないピザを作ります。どうすればいいですか? 見えるようにしましょう。よくわかるようにしましょう。全チームの品質に注目させましょう。品質レベルの同意を訪ねましょう。たとえば、調査やピザの受取のためにQA担当を参加させることもできます。また、完了の定義のドラフトやピザの標準リファレンスを作ってもいいでしょう。
よりたくさんのピザレシピを提供したいのですが可能ですか? ゲームのキーワードはカンバンです。ピザではありません。ゲームは2つのシンプルでちょっとだけ異なったワークフローを含んでいて、一度にひとつ紹介しました。これはカンバンのプラクティス全部を持ち帰る場合にとても十分です。レシピを増やしても学びの経験を増やさないでしょう。実際に、いくつかのチームはすでに2つのかさなりあうワークフローに奮闘しており、追加ピザレシピの複雑さにうまく対処できていないはずです。
ざっくりリードタイムを測定してもいいですか? はい。リードタイムの測定や記述はとてもおもしろいですし建設的です。これは協働のファシリテーターに移譲するかチーム自身でやってください。メインファシリテーターはラウンドの間だいたいとても忙しいはずです。
バリエーションや拡張 もしあなたが個人的にうまく機能するすばらしくてゲームを支えてくれる拡張を開発したならば、とてもうれしいことです。将来のバージョンに入れたいですね。しかし、ファシリテーターが紹介することが特にうまく機能しないと聞いたり見たりしています。たとえば、新しいピザレシピ、ピザボーイ、偉そうな顧客、材料を買うためのマネーシステム、ピザの販売などなど。おぼえておいてほしいのは、カンバン・ピザゲームが第一に考えているのは経験を学び、ツールを教えることです。ピザについてのゲームではなく、カンバンについてのものなのです! ゲームを頭を使わないエンターテイメントにしないでください。競争は自殺行為であり、全体としてカオスでしょう。ゲームをしっかり行い、あなた外とした方法で、学びという目的に集中しましょう。
カンバンピザゲームの準備リスト
- 3色の付箋(黄色はパイナップル、ピンクはハム、緑はルッコラ)
- 情報カード(ピザ生地。トマトソースを塗るので薄い色がいい)
- 赤いペン(トマトソース用)
- のり、もしくは透明なテープ(トッピングを貼り付けるため)
- マスキングテープ
- ハサミ(小さいの1つ、大きいの1つを各チームにそれぞれ配る)
- ストップウォッチ
- 注文カード(チームごとに1枚)
- オーブンプレート(チームごとにひとつ。テープで作っても良さそう)
- カンバンピザゲームのスライド
- ルールが書かれた紙
- カンバンの概要が説明された紙
ハムのピザが嫌いな場合は、エビのピザに置き換えてもOK。
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カンバンの紹介やゲームの遊び方について有識者の助けを借りたいですか? その場合はinfo@agile42.comまででご連絡ください。
このゲームはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスです。
楽しんでいただけますように。
The agile42 team
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日本語版のワークショップ説明スライドも作ってみました。