『物語 シンガポールの歴史』飲料水すら満足にない小国のスタートアップ事例がアッパレ!

物語 シンガポールの歴史 (中公新書)

東京23区ほどの土地はジャングル。資源も少なく飲料水すら満足に確保できないシンガポール。アジアの小国がいかにして一人あたりのGDPで日本を抜き、「アジアで最も豊かな国」とまで呼ばれるようになったのか? この物語には歴史、政治、思想、経営、マネジメント・・・生き残りを賭けたシンガポールのすべてがつまっていました。

建国者かつ独裁者リー・クアンユー氏

シンガポールの建国者と言われているリー・クアンユー氏が今年亡くなりました。僕は名前ぐらいしか知らなかったのですが、彼の死がニュースで報道され、彼が人生を捧げたシンガポールの歴史に興味をもった方も多いと思います。

マレーシアから追放されたのが1965年。飲料水すら確保できないほど資源のないシンガポールにとっては、となりのマレーシアの力がどうしても必要であり、痛恨の出来事だったのです。本書によると、リー氏は記者会見の場で泣き崩れたそうです。それぐらいの危機をシンガポールを襲います。

しかし、そこからの約50年。シンガポールは一人あたりのGDPでアジア最高峰にまで上りつめます。結果だけを考えると栄光の道のりです。しかし、本書を読むと、その道のりが平坦でなかったことを知らされます。

弱者のパンチ

先にも書きましたが、シンガポールは日本と同じく資源のない国です。しかも、島国なので水源も少なく、現在もマレーシアから水を購入してしのいでいます。

こういった状況の中で、シンガポール(リー・クアンユー氏)が選んだのは「経済至上主義」でした。

エリートを国家の中枢に集めるため、小学生から選抜を行います。そして選ばれた人間にはさまざまな待遇を行い、徹底的に育てます。

政治は、そのエリートたちの一党支配。言論統制の実施や、野党の徹底的排除など、あくまでも「国民」ではなく「シンガポール」のため経済発展を目指していったのです。

そして、シンガポール国民は、国による厳しい管理でありながら、シンガポールの現状を理解し、全員主義で乗り越えようとたくましく進撃するのです。

エリートだけで経済発展を目指すとどうなるのか?

シンガポールは、国家でありながら、まるで大企業のようにも見えてきます。「もし、エリートだけで会社を作ったらどうなるか?」をシンガポールを例に考えることもできそうです。

経済発展という結果をみれば成功だと言えます。しかし、もちろんマイナス面もあります。

  • 子どもの教育を選べない。
  • 労働力確保のための移民優遇の結果、現地人との格差が生まれてしまった。
  • 経済を優先したため、文化面が弱くなってしまった、

教育については、シンガポールに住む限り、国家の用意したレールに乗る必要がでてくるため、子供の教育を考え海外に移住する人もいるそうです。

移民問題については、現地人による不満が増加。とくに海外から来た資産家の横暴が目立っていて、トラブルも絶えないようですね。

そして文化。実用主義を信じてきたシンガポールとって、娯楽はあとまわしでした。結果として、国民はアイデンティティの模索を続けています。

エリートだけで、売上だけを目指した企業の姿のようにも見えます。

おわりに

結果的に、一気読みとなったとてもよい本だったので、感想はこれくらいで。

当初は、リー氏の生き方や、経済発展を遂げたシンガポールの強さを知りたいと思って読みはじめました。しかし、読み進めるうちに、悩みながら決断し、それを行動に移していった、シンガポールの底力に圧倒されていきます。

目的のために手段を選ばない。その結果、シンガポールが得たものは、ほしかったものだったのか? 今はもうリー氏にこの質問をすることはできません。

シンガポールはこれからどうなっていくのか? その答えは、今を生きる僕らが見る未来の中にあるのでしょう。