PCCマーカーを使いコーチとしてのスキルや振る舞いを鍛えていく方法

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コーチングの勉強をかねて日本コーチング協会神奈川チャプターの勉強会に参加しているのですが、そこで教えてもらった、PCCマーカーを使ったショートコーチングがとても面白かったので、その内容をご紹介。

PCCマーカーとはなにか?

PCCとは、ICF(国際コーチング連盟)の認定資格であるプロフェッショナル認定コーチの略称です。PCCマーカーは、PCCレベルのコーチが、コーチングセッションで示すべき振る舞い(behaviorを「行動」と訳されているけど、「振る舞い」のほうが近い気がする)を挙げたものです。

実際の認定試験でも指標として使われているようですが、練習セッションの内容を確認するのに役立つこと間違いなしです。ただし、ICFはそのへんも見越していて

PCC マーカーを、PCC の実技評価に合格するための定型のチェックリストとして使⽤すべきではありません。

PCCマーカー日本語版より

と釘をさしています。

実例を見てみましょう。たとえば、「傾聴」に関するコンピテンシー6はこんな感じ。

  • 6.1: コーチの質問や観察は、コーチが、クライアントがどんな⼈で、どんな状況に置かれているかを理解した上で、カスタマイズされている。
  • 6.2: コーチはクライアントが使う⾔葉について問いかけたり探索したりしている。
  • 6.3: コーチはクライアントの感情について問いかけたり探索したりしている。
  • ・・・

PCCマーカーの使い方

具体的な使い方例は以下です。

  1. コーチ役、クライアント役、オブザーバ役(オプション)でコーチングのセッションを実施する。コーチ役の質問をメモっておくとあとで便利
  2. セッションは10分ぐらいの短いものでもOK。そういう場合、コーチはあらかじめ「今回はどのコンピテンシーを意識したい」とクライアント役やオブザーバ役に伝えておき、そこを重点的にやる作戦もある
  3. セッション終了後に、PCCマーカーの内容のうち、実現できていた振る舞いをチェックする

PCCマーカーが全てだとは思いませんが、なにかしろの指標があると、確認が便利になります。さらに、苦手な部分もわかってくるので、苦手克服の指針にもなりえます。

PCCマーカー 2020年9月改訂版チェックリスト版

PCCマーカーはコンピテンシー3から項目に分かれています。コンピテンシー1と2はざっくりまとめられているためスキップしています。ICFが定めるプロコーチの能力水準を事前に読んでおきましょう。

具体的にどういう質問すればいいか思い出せるように質問例も書いてみました。随時更新予定。

全37チェックバージョン。

コンピテンシー3:合意の確⽴と維持

参考: B. 関係性をともに築く 03. 合意の確率と維持

  • [ ] 3.1: このセッションで達成したいことを確認・再確認できているか?
    • このセッションでゴールを何にしますか?
    • このセッションでどんなテーマを話したいですか?
    • このセッションで達成したいことはなんですか?
    • このセッションに期待していることはなんですか?
  • [ ] 3.2: このセッションで達成したいことの度合い(尺度、どれぐらいなのかわかるもの)を定義したり、再確認しているか?
    • この時間が終わったときにゴールにどれぐらい近づいていたいですか?
    • このセッションでゴールに向けて何を達成したいですか?
    • このセッションが終わったら何を手に入れていたいですか?
    • 何がどうなったらゴールを達成したことになりますか?
  • [ ] 3.3: このセッションで達成したいことの何が重要かを問いかけたり探索しているか?
    • このゴールを、なんで達成したいんですか?
    • このゴールは、何が大事なんですか?
    • このゴールは、あなたにとってどういう意味があるのですか?
    • 今回のゴールが達成できたら、あなた自身にはどのようなプラスの影響がありますか?
    • 今回のゴールが達成できたら、あなた自身はどう成長していますか?
    • 今回のゴールが達成できたら、何がハッピーですか?
  • [ ] 3.4: このセッションでゴールを達成するためにやるべきことを特定できるようにしているか?
    • 今回のゴールを達成するために何をすべきでしょうか?(直接的な言い方)
    • ゴールの壁になるものは何でしょうか?
    • 現状とゴールのギャップはなんでしょうか?
    • いろいろ意見が出てきましたが、どれがゴール達成に必要でしょうか?(ゴールの特定)
    • いろいろ意見が出てきましたが、このセッションでどこから話しましょうか?

コンピテンシー4:信頼と安全を育む

参考: B.関係性をともに築く 04. 信頼と安全を育む

  • [ ] 4.1: クライアントを認めているか?尊重しているか?
    • そう思っているんですね
  • [ ] 4.2: いいことも悪いことも受け止めてサポート、共感、関⼼を⽰しているか?
    • なぜそう思っているんですか?
  • [ ] 4.3:クライアントの感情、物の捉え⽅、関⼼、信念、懸念を承認し、安心して話せるように⽀援しているか?
    • (ずれを感じても承認し進める)今話していることはゴールに関係ありますか?
    • (ずれを感じても承認し進める)ここで話す必要はありますか?
    • (ずれを感じても承認し進める)ゴールから離れた内容になっているように思いますが、話を続けますか?
  • [ ] 4.4:クライアントをいざない、反応を受け取っているか?
    • (ずれを感じたときに)XXの話をしていますが、本当はZZの話をしたいのでしょうか?
    • 話したいこと話せていますか?

コンピテンシー5:今ここに在り続ける

参考: B.関係性をともに築く 05.今ここに在り続ける

  • [ ] 5.1: クライアントの全体(何者か?)に対応しているか?
    • 今話していることはあなたとどういうつながりがありますか?
      • 今私はこう思っていますが、あなたはどう思っていますか?
  • [ ] 5.2: 達成したいこと(何を)に一貫して対応しているか?
    • 今日のゴールはXXですが、今の話を続けて問題ないですか?
    • 今回のゴールはXXですが、ゴールに向かってちゃんと進めていますかね?
  • [ ] 5.3: クライアントが選択できるよう⽀援しているか?
    • 今、XXとZZがでてきましたが、どちらの話をしましょうか?
    • 次の話に進んでもいいですか?
    • 私はこう感じたのですが、あっていますか?
  • [ ] 5.4: クライアントのことをより知りたいという好奇⼼を⽰しているか?(自分のための質問ではなく、相手のための質問)
    • どうしてそう思ったのですか?
  • [ ] 5.5:コーチはクライアントの沈黙、間、内省を受け⼊れているか?

コンピテンシー6:積極的傾聴

参考: C. 効果的なコミュニケーション 06.積極的傾聴

  • [ ] 6.1: クライアントの状況に合わせて質問しているか?
    • 前に話しましたね(これまでの流れ)
    • 課題として考えていた内容ですね(これまでの流れ)
  • [ ] 6.2: クライアントが使う言葉に対して深めたり広げるために、問いかけたり探索しているか?
    • 今、XXとおっしゃいましたが、どういう意味かもう少し詳しく教えてもらえますか?
  • [ ] 6.3: クライアントが出す感情について問いかけたり探索したりしているか?
    • 今話してみてどう感じましたか?
    • そのときどういうふうに思ったのですか?(時制は関係ない)
  • [ ] 6.4: クライアントが出すエネルギーの変化、非言語的表情・声のトーン・ふるまいなどについて探索しているか?
    • 今声のトーンが変わったように思いますが、何を考えたのですか?
    • 表情が明るくなったように思いますが、なにか理由があるのですか?
  • [ ] 6.5: 自分自身をどう認知しているかを問いかけたり探索したりしているか?
    • XXとおっしゃいましたが、その時どう思ったのですか?
    • なぜあなたはそういう行動をしたと思いますか?
  • [ ] 6.6:クライアントの話を遮らず、最後まで話させているか?
  • [ ] 6.7: クライアントが伝えたことを端的に反映したり、要約したりできているか?
    • つまりXXということですか?(できるだけクライアントの使った言葉を使ったほうがアンカリングが起きない)

コンピテンシー7:気づきを引き起こす

参考: C. 効果的なコミュニケーション 07.気づきを引き起こす

  • [ ] 7.1:クライアントの現在の考え⽅、感情、価値観、ニーズ、欲求、信念、⾏動について質問をしているか?
    • 今あなたはどう思ったのですか?
    • なぜあなたはXXだと考えたのですか?
    • 今のあなただったらどうしますか?
    • 今どういう気持ですか?
    • 10点満点だと何点ですか?
  • [ ] 7.2: 出来事についてあなたはどう感じているか?(何者か)
    • あなたはどう思ったのですか?
    • あなたはどう考えたのですか?
    • 理想の状態だったら、あなたはどうしますか?
    • タイムマシンで過去に戻れるとしたら、次どうしますか?
    • 上司の立場だったらどうしますか?
  • [ ] 7.3: 出来事について何が起きているのか?別の視点で何か起きていないか?(何を)
    • 何が起きたのですか?
    • どういう状況だったのですか?
    • 別の視点だとどうですか?
    • うまくいくとき(うまく行かないとき)はどういう感じですか?
  • [ ] 7.4: ストレッチゴールを確認しているか?
    • ストレッチゴールはなんですか?
  • [ ] 7.5: 観察、直観、所感、⾒解または感情をフィードバックし、クライアントの探索を促がしているか?
    • いま感じたことをお話しても良いですか(許可)? XXと思ったのですが、今の話を聞いてどう思いましたか(確認)?
  • [ ] 7.6: ⼀問ずつ、明快に、単⼑直⼊に、主にオープンクエスチョンで質問しているか?
  • [ ] 7.7: 明確で簡潔な⾔葉を使っているか?
  • [ ] 7.8: 対話の⼤部分をクライアントが話せるようにしているか?

コンピテンシー8:クライアントの成⻑を促進する

参考: D. 学習と成長を育む 08.クライアントの成長を促進する

  • [ ] 8.1:クライアントが達成したかったことに向けて、前に進む探求を促したり許容したりしているか?
    • 今回はXXをテーマに話してきましたが、何を学びましたか?
  • [ ] 8.2: 自分自身から何を学んだか?探索を促しているか?
    • 今日話してみて、あなた自身思うことはなんですか?
    • 今日話してみて、あなたはどう成長しましたか?
    • 今日話してみて、あなた自身の価値はなんだと思いましたか?
  • [ ] 8.3: 置かれた状況から何を学んだか?探索を促しているか?
    • 今日話して、あなたは何を学びましたか?
    • 今日話して、あなたが新しく得た気づきはなんですか?
    • この時間の前と後でなにか変化はありましたか?
  • [ ] 8.4: 新しい学びをどう活⽤するか考えるよう促しているか?
    • 今日のこの時間で学んだことを、どう活かしていきますか?
  • [ ] 8.5: セッション後の思考、振り返り、⾏動をデザインしているか?
    • では、ふりかえりをしましょう。今日のセッションはどうでしたか?
    • 今回のセッションを終えて、どういった行動をしていきますか?
    • 具体的に何をしますか?
    • 次回お会いしたときにどんなアップデートを話したいですか?
  • [ ] 8.6: クライアントの使える情報、⽀援、障壁の可能性なども含めて、どのように前進するのかを考えているか?
    • アクションをすすめるために、使えるリソース(情報、人、経験など)はありますか?
    • アクションの壁になっているものはありますか?
  • [ ] 8.7:達成のためにクライアントのやることとコーチがやることを話し合っているか?
    • 本当にできますか?
    • やったら教えて下さいね
    • いつやる予定ですか?
    • 私がやれることはありますか?
  • [ ] 8.8:クライアントの進歩と学びを祝福しているか?
    • アクションが決まりましたね(よかったなどのフィードバックはしない。あくまで事実を述べるのみ)
    • 今回のセッションでXXができましたね
  • [ ] 8.9:どのようにこのセッションを終わらせたいかについて協働しているか?(二人で終わる)
    • 話足りないことはないですか?
    • 時間なので終わらせて良いですか?

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