沢木耕太郎さんの『旅する力』を読み終えた。これで、僕の中の『深夜特急』が終着駅を迎える。想像していた以上に旅に出たくなる本だった。特にじわじわとにじみ出てくる孤独がとてもいい。孤独はとてもいい。本を読み終えて、ふと、初めての海外旅行を思い出した。
初めての海外は、2010年の8月、会社の出張でアメリカに行ったときだ。急に決まって急いで準備しなければならなかったので、正直、気乗りしなかった旅。本来、不精な人間である。
出発まで仕事が忙しかったり、疲れもたまってしまったりして、キャリーバックとともに大きな口内炎を持っていくことになった。すごく痛かった。おかげで、向こうのご飯をぜんぜん噛むことができず、お腹はいつもゴロゴロしていた。胃腸が弱いのである。
カンファレンスの会場はフロリダで、確かミネアポリスで乗り換えだった。ドキドキしながら入国手続に進み、まじめに「カンファレンスに参加する」と説明すると、どんなカンファレンスなのかを聞かれた。「アジャイルカンファレンスって知ってるか?」と言うと、「知ってる」と胡散臭い回答が来た。「へー、すごいね」と言うと「まあな」という感じで通してくれた。
空港の中は別世界だった。どこを見ても英語しか書かれていない。誰もが英語を話している。意味の分からない雰囲気を肌で感じ、「意味わからん!」と笑ってしまった。ここで大きな声で「うんこー!」って言っても誰も気がつかないのか、と妄想した。
そこからは、毎日が不便だった。タクシーの兄ちゃんなんて、不機嫌そうにカーステレオの音をガンガンならしだすし。変なところに連れてかれたらどうしよう。そうなったらいきなり目潰ししかないな。と妄想した。
なんだか仕組みがよくわからないまま、帰ってきた気がする。
最終的に、生きていくことはできそうでも、楽しく生きていく力が足りていないのが十分にわかった。自分の背丈がわかるとまた笑ってしまった。
そして「また、旅をしよう」と思った。