朝9時から夜9時勤務が当たり前という中国杭州アリババオフィスに行ってきた

有名な正面の建物

後輩が中国杭州のアリババに転職したので、オフィスを見学しに遊びに行ってきた。「996問題」と呼ばれるように、9時から21時まで週6日働く職場環境。でも、出会った人たちはとても楽しそうに働いていた。

杭州アリババオフィス

アリババオフィスの正面は、特徴的なデザインになっている。有名な建物だが、今は新しいオフィスがどんどんできているので、古いキャンパスのひとつになるらしい。

オフィスのゲートは顔認証システム。自販機ですら顔認証できて、支払いはもちろんアリペイにつながっている。今回の旅は2泊3日だったが、スマホとアリペイだけで生活できて、現金の必要性はまったくなかった。

自販機も顔認証。レンタル傘もあった。

よって、市内の至るところにスマホ充電スポット(上記の写真で一番左の白い筐体)があり、レストランに行けばモバイルバッテリーを貸してくれる。

ロの字になっているビル群。

アリババのキャンパスは中庭を囲むような作りになっていて、それぞれの建物へは雨に濡れずに移動できる。USの大企業と比べるとこじんまりした印象だが、このキャンパスだけで1万人ぐらいは働いているらしい。

書店には創業者の本がずらり。日本語版があればほしいなぁ。

本屋、マッサージ屋、ジム、花屋、フルーツショップ、郵便局、託児所・・・と、生活に必要な施設は一通り揃っている。

社員食堂は広いフードコートのようで、こちらももちろんアリペイで支払い。本格的な中華料理を手軽にたべられた。キャンパスのいたるところにモニターがあり、いたるところで偉い人たちが自分たちのビジネスについて語りかけている。

食堂は、朝昼夜と利用できて、夜遅くまで働く社員のために、夜9時になるとメニューがかわるそうだ。こういう福利厚生や社内環境は、もともとは「仕事のため」にあるわけで、その環境は整っているのか。

センス最高。

こんないかしたTシャツを着た女性がいた。後輩がいうには、化粧をする女子が少ないんだって。「女性は化粧しなければならない」みたいなものがなくて、新しい価値観が広がっているのかもしれない。男女ともに価値観はどんどん変わっていくものなのだろう。

働くための仕組みがたくさん用意されているので、さぞかし大変そうに感じるが、キャンパスを歩いていると、社員たちの明るさをとても感じる。そして、社員に若い人が多く、特有のエネルギーを感じた。みなさんとても楽しそうだ。

キャンパスを一回りして、食堂をごちそうになり、正門に向かうと、誰もがスマホでタクシーを呼び出していた。そして、社員のためにコーヒーやデリバリーフードをとどける宅配員が入れ代わり立ち代わりやってくる。もう夜だけど、まだ働くのだろうな。

「今日は金曜だからみんな早い」というが、オフィスの電気は煌々と光っていた。

後輩の自宅近くでザリガニを食べながら、仕事についていろいろ聞いてみた。以後はすべて僕の主観で文章を組み立てている。

忙しい?

忙しい。週末やることがないので(彼は単身赴任なのだ)、仕事したり、勉強したり。同僚がはじめ、山登りに誘ってくれたが、その理由は「これから忙しいだろうから、今のうち行っておこう」だった。

日本の会社と比べた違いは何?

カルチャーを大切にすること。社員で集まって飲みに行ったり、ゲームしたり、カルチャーをとても大切にしている。本当にカルチャーを守ろうとしている。同期で集まって出し物したり、年に数回、優秀者の表彰があったり、そういうイベントを楽しめる人が集まっている。

開発体制は?

縦割りとか横串とか言うより、網状の組織になっている。僕は横串チームに属してるけど、プロジェクトにも入ってるし、その中でもコミットメントしようとしている。

キャリアパスとかある?

エンジニアとマネージャーで分かれていて、どちらが偉いとかない。どちらかというと、マネージャーはメンバーの育成にあまり力をかけておらず、プロジェクトや事業に多くをコミットメントする人が多い。

採用とかどう?

入社してすぐに採用も担当している。情熱、実力、ポテンシャルを見ている。あとはカルチャーにマッチするかどうか。

新卒も採用している。中途は国内外にいる中国人中心。みんな英語は話せるけど、基本的に中国語なので、海外の人もいるけど少ない。

給与面は?

待遇はいい。高いグレードであれば、サインアップボーナスで億近く狙えるが、特定期間在籍しないといけない。そして、評価が2回下がると辞めたほうがいいと言われるぐらい、生き残るのは大変。

なんで日本企業辞めたの?

日本だと、何かをやれるようになるためにマネージャーにならないとだめな部分が大きいと感じている。チームを守るために偉くなったりマネージャーになったり。自分はもうちょっと技術をやりたかった。もっと学びたい。それができる場所を探していた。

世の中が働き方改革だなんだいっている時代だけど、数時間で行ける隣の国では、明るいブラック企業で死ぬほど働く人たちがいる。

これは決してネガティブな表現ではない。後輩の同僚の人とも話したが、みんな明るく忙しい。忙しさを、成長の場として楽しんでいる。

さよなら未来』という本にこんな話があった。

これからは働き手を単なる「労働力」として扱うのではなく、たとえば「やりがい」といった面からモチヴェートしていくことが必要になっていくはずで、それが「福祉」という観点からではなく「効率」や「生産性」から考慮されていくのがいまどきの会社論だろう。
社員をハッピーにできない企業に、どうやってお客さんをハッピーにする製品やサーヴィスがつくれるわけ?というようなことが、あらゆる企業に問われているのだとすれば、「働くこと」の意味も「安定」の内実も更新せざさるをえなくなる。

『さよなら未来』 ゆとり女子を笑うな より

ハッピーの手段として働き方改革が登場し、企業は社員のモチベーションにお伺いを立て、働くことの意味が変わっていこうとしているとすれば、この話をこの会社の社員が聞いたらどう思うのだろう?

杭州の観光名所では、社員旅行の集団が、自社のTシャツを来て練り歩いていた。アリババオフィスでも、同期と思われる人たちが「ぼくらの写真を撮ってくれ」と駆け寄ってくる。

すこしねっちりした会社風土は、まるで昭和のよう。まるで古き良き日本の面影のようだった。

その後輩は、新卒で僕のチームに配属された。とても物静かで、良識があり、人に優しい、まるで僕みたいな若者だった(嘘)。

そんな彼にはいろんなことを教えた。先輩へのビールの注ぎ方もしかり、仕事のしかたもしかり。ときには厳しく「『でも』じゃなくて『はい』だ!」とか「話が長い! Be simple!」とか、いいのかわからないこととまで本当にいろいろなことを。

今回、新しくて厳しい環境で働く後輩を励まそうと思って遊びに行ったけれど、逆にたくさんのことを彼から教えてもらった。

チャレンジとは何か? 自分は何を成し遂げるのか? そして、ハッピーに働くとは何か?

昔、たしか彼がはじめてビールを奢ってくれたときに、こんなことを言っていた。

あの時は、藤原さんの言ってることがまるでわかりませんでしたが、今はわかる気がします。仕事というより人生について教えてもらった気がします。

それをきいてなんとも照れくさかったけど、「あんときわかってなかったんかい!!!」と言って二人で笑った気がする。

がんばれ。 君ならきっとできる。