もうすぐ育休が終わる。多分、そこらへんの2歳児よりお父さんと一緒にいる時間は長かったはずだ。そろそろお別れだ娘よ。君の好きなプールも、もう一緒に入れない。だから、来年からは、ひとりでスイミングに通えるようにならなくちゃいけない。今日は君が少し大きくなる日だ。
大人の階段のぼれ!
娘の通うスイミングスクールは、2歳5ヶ月までは、保護者と一緒にプールに入る。それをすぎると、プールの手前でお別れして、親抜きで先生と泳ぐことになる。
これまでは僕が一緒に通っていたけど、嫁がプールに入れないので、続けるか否か考える必要があった。スクールに相談してみたところ、「今の月齢なら次のステップに進めて、そこは親御さん抜きの教室なので、体験してみてはどうですか?」と言われ、試してみることにした。
当日、何も知らない娘をプールに送り出し、二階席から見学。お父さんがいないので不安そうな顔だが、さすが先生。おもちゃで気を引いていい感じで遊んでくれている。
娘と目があったので、手をふってみる。娘も手をふりかえしてくれた。
なんだか娘が遠い存在になったみたいで、寂しい気分だった。いつかは娘にも友達ができ、恋人ができるのかもしれない。そうすれば、僕とはもう遊んでくれないかもしれない。
親御さんたちがプールサイドまで降りることができる見学デーだったので、しばらくすると事務員さんが案内をはじめた。見に行って大丈夫かなぁと思ったけど、試しに降りてみる。
娘と目があったので、手をふってみる。娘は目を大きく開き、ゆっくりぐしゅっとなって泣きはじめた。
こりゃいかん。とその場を逃げる。頭のなかで一瞬、助けに行きたいなと思ったけど、逃げる。二階席に戻っても、こっそりとしか下を見ることができない。娘の泣き声がプールに響いているようだった。
事務員さんが「下で見ないでいいんですか?」と声をかけてきたが、「降りると泣くんですよ」と言い訳した。「あら、そりゃ寂しいですよねぇ」と言われて、そりゃ寂しいよなぁと思った。
こっそりこっそり娘を眺める。まだ泣いている。ずっと先生に抱っこされたままで、周りの子はがんがん泳ぎ回っていた。「お父さん」という泣き声を聞いていると、胸がぎゅーっとしめつけられるようになる。
ああ、思い出した。娘がはじめて注射したときに、代わってあげることができない痛みにとても似ている。
レッスンがはじまって45分。あと10分でおわるけど、先生がうまく誘導してくれて、遊びに集中するようになった。
みんなと同じように泳ぎ回っている。娘はA型なので、ボールを拾って片付けるのは得意だ。周りの子が遊んでいるけど、娘は黙々とボールを拾っていた。
誇らしい。
レッスンが終わり、迎えに行くと、娘は「ちょっと泣いちゃったね」と言った。
お父さんもちょっと泣いたけど、「ひとりでがんばったね。偉いね」と言って頭をなでた。