『今すぐ実践! カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント』をいただいたので読ませていただきました。「実践」というだけあって、あるあるネタ満載のいい本に感じました。以下、書評です。
今すぐ実践! カンバンによるアジャイルプロジェクトマネジメント
「スクラムできないわ」と思ったのは2013年ごろのことだ。これはスクラムがダメというわけではなくて、ある一定の期間(スプリント)の作業を固定し、チームへの障害を最小限におさえて開発を進める形を作れないということ。当時の開発現場は、
- 急な横槍作業がある
- スプリントを超える長く続く作業がある
- まだ小さいサービスでとりまく変化が多い
と、当時大ブームだったスクラムを試す機会に恵まれなかった。そこで試したのがこのカンバンだ。ちょうど平行して『リーン開発の現場』を翻訳する機会があり、実際のプロジェクトでもカンバンを試すことができた。まずは小さなカンバンから。やがてWIPを設定したり、ステップごとの完了を定義したり、そのカンバンはホワイトボードいっぱいに広がり、チームが毎朝チェックする大切な「場」となった。
本書では、Xboxの開発に携わる著者が、ウォーターフォール、スクラム、そしてカンバンへとプロセスを進化させ、その経験から得た知見を惜しみなく紹介してくれている。そして、彼の知識にとても信頼性を持てるのは、ところどころに「あーあるある」というネタがあるからだ。
例えば、著者は、一定間隔で実施するスクラムで言うスプリント計画を実施していない。そのかわり、四半期という比較的長いタイミングで、フィーチャーの仕分けをしている(P28 )。カンバンでではバックログがあれば、それを「上から順番に」やっていくだけでいいから、計画を意識しなくて良くなる(もちろん計画は重要だ)。
さらに、カンバンに切り替えると分解されたタスクがだいたい同じサイズ(見積もり時間)になっていく(P34)。これもまさにカンバンの面白いところ。やっていくうちに気づく点だ。こうなると、ストーリーポイントを考る必要性もなくなり、生産性と名前を付けたければ、完了したカードや付箋の数を数えればいい。人の増減があるなら人数で割れば一人あたりの生産性を数値化できる(もちろんざっくりだが)。
こういったナレッジだけでなく、「Xbox内幕」というコラムからは、世界的に有名なプロダクトを知ることができる。かなり大規模な開発に見えるが、これをカンバンに置き換えるというチャレンジには経緯を払いたい。
本書の前半ではカンバンのはじめかたが中心だが、後半になると「第4章 ウォーターフォールからの適応」、「第5章 スクラムからの進化」、といった、既存環境からの変化に主題が移る。監訳者のあとがきにあるように「現場の課題解決」を中心に考えられた構成なのも面白い。
僕はこれまでに『カンバン』、『リーン開発の現場』、カンバンに関係するブログ(本書でも紹介されているスクラムバンとか)をいろいろ読んできたが、既存のプロセスの限界を感じるのであれば、著者のようにカンバンを使って進化させるのも一つの手だろう。
本書はそのための支えになるに違いない。
6/18: Amazonのレビューに転載