「言われたことをやるか」複眼隊長はそこで、小さく息を吐き、「もしくは、自分がやるべきだと思ったことをやるか、だ」と続けた。
伊坂幸太郎による10冊目の書き下ろし長編小説。がついに登場。猫と人間が静かに暮らす国の戦争のお話。
今回はとある国の話なので、今までのように仙台が舞台ではない。そして、今までとちょっと違う匂いのする本だった。
我々の常識という枠からちょっとはずれた文化を持つ国の話。こちらからみると「うーんたしかにそう言われると困るな」ということや言い返せない言葉がある中に、キラリと希望のような言葉が入っている。
疑うのをやめて、信じてみるのも一つのやり方だ
朴訥としたこの国の人間からも、気付かされることが多い。この国で威張り散らしていた国王の息子が状況に困惑するシーン。
「酸人も愚かだなあ」と言わずにはいられなかった。「これまでとは状況が違うのに、これまでと同じように威張ろうとして」「まあ、今までのやり方とか態度は、簡単には変えられないだろう」
『今までうまくいっていたこと』を変えるのが、死ぬほど怖いんだ。しかもしれは、ただ単に、自分にとってうまくいっていただけだというのに
「これまでと同じよう」「今までうまくいっていた」なんて存在しないのかもしれないぞ。
そして、集団の心理。
今までは、自分には無関係の出来事だ、とのんびり構えていたのが、自分たちにも影響があると分かった途端、「それは困る」と言い放つのは、あまりに単純で、分かりやすい。
この弦という男の番が終わるまでは、勝てるかもしれない、と期待していた。そうだろう?それが、不利になった途端に全部をなかったことにするのは、おかしい。自分たちが不利になった途端に不公平を言い出す人間ほど、不公平なものはいない。違うか?」
ようするに、みんな身勝手なのだ。
しかし、この国の猫はとても頭がよく一番頼り甲斐がある。特に猫と鼠の会話にときより「はっ」っとさせられた。猫が鼠を襲うことに対し鼠は「当たり前」という大きな石のような考えを自分たちの力で動かそうとする。
でも、トム、落ち着いて考えてみるよ。自分が生まれる前にも、時間があったなんて、信じられるか?
確かに。信じられないな。