ソフトウェア開発会社に未来なんてない、つーか滅びろ


「納品」をなくせばうまくいく』を読み終えました。この本はソニックガーデンという、とあるドメインで話題のソフトウェア開発会社の話が書かれています。著者の倉貫さんとは何度か遊ぶ機会があり、以前からいろいろお話を伺っていたのですが、今日は本書を読んだ感想を交えながら、自分なりに感じたことをぼろくそに書いてみようと思います。

システムインテグレーターというカースト制度を学ぶ

僕は新卒で中堅のSIerに就職しました。ほとんどが2次受けで、外資系のSIerに常駐してシステムを作ってました。その現場は、想像していたのとはちょっとちがって、X次受けという透明なカースト制度がありました。

「これ作っといて」みたいな感じで仕事を丸投げする人や、ろくにシステムもつくれないのに上流工程とやらで論理破綻した仕様書を作る人など、プロフェッショナルってなんだっけ? と考えさせられることばかりです。

また、1次受けだと100万、2次受けだと70万、3次受けだと30万・・・みたいな問屋もびっくりなシンプルな売上げ。最下位層だと、手取り10万を切るなんてざらなんですよね。そんな当時の雰囲気を考えると、「上流にまわったもん勝ち!」が多勢で、自分の会社もなんとか一次請けを狙っていたと思います。

また、毎年のように新卒が入ってきて、「そうか、人月派遣商売だと頭数を増やせば売上げ上がるもんなー」とシンプルな仕組みに関心したものです。だって、100万人雇って50万円で貸し出せば5兆円かな? 「国民全員に1円もらえば1億円じゃないか!」とはしゃいでた少年時代を思い出しますね。

お客さんもなんか変だということを学ぶ

とある凄まじくデスマーチなプロジェクトを死ぬ気で納品した時に、顧客である情シス部門の人からこんなことを言われたんです。

このシステムは前の担当者が企画したもので、私の欲しいものじゃない。どこかで作り直すだろう。

まず最初に「一生懸命、作ったのにそれはないだろ」という感情と、「お客さんもお金を使うことが目的なんだろうな」という大人の事情を感じました。

また、2次受けとかだと直接的なお客さんが1次受けの人になるのですが、日本でカースト制度のトップに君臨するSIerの人なんて

仕事を作り与えるという仕事もある

という哲学的なことをいう始末。大手SIerの企業理念をのぞいてみると

わたしたちは、「お客様のため」最善を尽くします–NTTデータの社員信条より

私たちは、個々の人々の彩りある生き方をもとに、お客様をはじめとするステークホルダーの価値を創発し、社会のより良い発展を目指します。– CTCの使命

社会に対して:新しい社会のパラダイムを洞察し、その実現を担うお客様に対して:お客様の信頼を得て、お客様とともに栄える — NRIの使命

と、「お客様」に対する姿勢が書かれているのに、どうも現場で実感できない。さてさて、僕が想像していたエンジニアの現場ってこんなんだっけ?と考えるようになりました。

自分の価値ってなんだっけ?

ただ、そんな現場であっても、個人的に「作ること」が好きだったので、いろんな技術を学べるという楽しい部分もあります。僕の場合、上位カースト保持者は技術力がなかったので、自分の技術提案はだいたいとおりますし、極端に言うと、いろんなチャレンジをしてサンドボックス状態になっても、期待する動きをすれば納品できるわけです。

でも、自分の価値ってなんだろう? とよく考えました。僕はそれほどすぐれたエンジニアではないので、はじめは「人と同じことを半分の時間でやれるようになる」のを目標にしてきました。だから、アジャイル開発のプラクティスとか超好きなんですよね。「楽をするというのはサボるのと違う!」とか良く後輩に言ってました。

あるとき、自分の担当を1ヶ月ぐらい前倒ししてしまい、ひまひまプーな時期がありました。人月で働いているから前倒ししてやることがなくても会社に行かなければなりません。いくら前倒ししても給料は上がりませんし、担当外の仕事をやる気にもならない。

がんばっても報われない気分です。

サービス開発の世界

そんなこんなでサービス開発の世界に入ったのですが、これまで感じた疑問に対して、解決したこともあれば解決しなかったところもあります。

たとえば、社内で開発してるくせに、部署間で受発注の概念があったりして、結局納品にしばられます。まぁ、「デザイン部隊」みたいに職能で組織をわけちゃうと、入ってくる仕事がキューにならざるを得ませんし、仕方ないのかもしれません。

あるとき、UXで有名な人に相談したら、「我々はこういうやり方でアジャイルにやっていくから、それに合わせてください。え? 一緒のチームで働けないか? 無理です」みたいにウンコアジャイルを押し付けられることもあったなぁ。

そんな中でも、まぁ、自分たちのやり方みたいなのを考えて実践していくチームは作れたので、ちょっとずつ良くしてくのが一番の近道なんだろうと思ったり。

でも、いかんせんSIerの臭いがするんですよね。どこからともなく。

なんか変な仕組みはいつか壊れる

ということもあって、SIを中心とした開発の仕組みに疑問を持っています。また、SI以外でも受発注で人月でコスト計算しているところも変だ。

この「なんか変」な部分って、いつかどこかで破綻するような気がするんですよね。仕組みがイケてないと結局どこかでゆがんでしまう。

多分、ちゃんとお客さんとスクラム組んで開発しているところもあるんだろうけど、見回してみると少なすぎる気がするので、個人的にはそういう仕組なんて滅んでしまえばいいと思うんです。

「納品」をなくせばうまくいくのか?

さてさて話は戻りますが、納品をなくせばうまくいくのか? この目で見たことがないのでなんとも言えないのですが、本書を読むかぎりどうやらうまくいっているようです。また、本書を読むかぎり、うまくいきそうに感じます。

ターゲットとする開発を絞ったり、技術をそろえたりといろいろな取り組みが支えている「仕組み」なのでしょうが、この本を読んで思うのが二つ。

ひとつは、お客さんと一緒にソフトウェアをつくろうとしていること。どこぞのふわっとした企業理念とは違い、会社のアイデンティティとしてお客さんとともに歩こうとしているところが伝わってきます。

もうひとつは、エンジニアがエンジニアっぽいところ。技術を追い求めるだけではなく、ビジネスマンとして専任エンジニアとしてちゃんと顧客に向き合っています。

これってとってもふつうのコトなんだろうけど、なかなかやれないことなんだと思うんですよね。どこかで自分が得をしたいと思ってしまったり、どこかで所詮仕事と割りきってしまったり。本書はこの業界に身をおく人間であれば、なにかしら琴線に触れるんじゃないでしょうか。

倉貫さんたちは、これまで目の前にあった「?」に対して、納品のない受託開発をひとつの答えとして提案しているように思います。もちろん、友人としてこのモデルがうまくいくことを願いますが、こういう一歩を踏み出す会社がもっと増えれば、僕みたいなのに「滅びろ」なんていわれない業界になるんじゃないかなぁ。

つーかそうなればいいのに。

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