デレク・ハートフィールドという作家の作品では、主人公が3度死ぬ。
ある新聞記者がインタビューでこう聞いた。
「このことは矛盾じゃないですか?」
すると彼はこう答えたという。
「君は宇宙空間で時がどんな風に流れるのかを知ってるか?」
記者は「そんなこと誰にもわからないですよ。」すると彼はこう答えた。
「誰もが知っていることを小説に書いて、いったい何の意味がある?」
「風の歌を聴け」にはハートフィールドの「火星の井戸」というものについて書かれている。
火星には深い井戸があり、そこに戻った人間は二度と戻れないといわれていた。
ある青年がその井戸にもぐった。彼はそこで死のうと思ったのだ。
長い間か、短い間かはわからないが、彼はずっと井戸をさまよっていた。
そしてある時、突然日の光を彼は感じた。どうやら外に出てしまったらしい。
彼は空を見上げた。すると太陽が以前にもまして大きく膨張していた。
しばらく見ていると、風が彼に話しかけてきた。
「あと25年で太陽は爆発するんだ。」
「どうして?」
「太陽は弱っている。死にかけているんだよ。」
「なぜ急に?」
「君が井戸にもぐっていたときに約15億年たっていたのさ。
君の抜けてきた井戸は時のゆがみに沿って掘られているんだ。
つまり我々は、時の間をさまよっているのさ。宇宙のはじめから終わりまでね。
だから、我々には正もなければ死もない。風だ。」
「ひとつ質問していいかい?」
「喜んで。」
「君は何を学んだ?」
風は少し微笑み、消えていった。
再び沈黙が周りを包んだ。
しばらくして、銃声が響き渡った。
風の歌を聴け
