夜のピクニック – 恩田陸

夜のピクニック - 恩田陸

夜歩く。
ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なのだろう。

夜の8時から朝の8時まで歩く「北校鍛錬歩行祭」。
約80キロにもわたる道のりを歩くこの歩行祭は、修学旅行に変わる北校の名物行事である。快晴の空の下、学校へと上る西脇融。けだるい表情で空を眺める甲田貴子。貴子は融に対する一つの賭けをこの夜のピクニックに秘めていた。
高校3年生を迎える2人にとって忘れられない夜のピクニックが今幕をあける。
僕は高校生ぐらいから映画を見るようになった。それまでは本をよく読んでいたが、つい最近になって改めて本の良さがわかった気がする。これは登場人物の一人「戸田忍」がもらしたように

しまった、タイミング外した。十代の入り口で読んでおくべきだった。
そうすればきっと、この本は絶対大事な本になって、
今の自分を作るための何かになってたはずだった。

というのと同じ感覚だと思う。
夜にただ歩くだけの物語。しかし、修学旅行の夜にオンザマクラで本気トークしているのと同じ、いやそれ以上のゆったりとした時間を感じることができた。いつも中のいい人間同士であっても、なぜかそれ以上に親密になれる瞬間。その瞬間を本にしている恩田陸さんはすごい。とてもすごい。本当にすごい。
僕は心のどこかで「耳をすませば」の雫ちゃんがいっていたように「こんなのうそだ」というところをもっていたのだと思う。でもこの夜のピクニックを読んでみて、「こんなことを本に書くことができるのか!」、「これが本当に本なのか?」と声を出してしまうぐらいの感動を覚えた。多分、死ぬまで忘れられない本だと思う。今まで本に感じていた印象がぶっとんで、新しい本を開いた感じだ。僕はこの本を人に薦めるのではなく、「僕はこの本を読んでよかった」と人に言いたい。

おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、
このノイズが聞こえるのって、今だけだから。
おまえ、いつか絶対、
あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う。

融の友人であるクールだが熱いところを持つ戸田忍。貴子の友人である才色兼備、凛としたお嬢様の遊佐美和子。夜に元気になる高見光一郎。海の向こうで大学生活をする榊杏奈。出てくる人物すべてにどっしりとしたイメージが持てて、全員が鮮明に頭の中に浮かんだ。とくに美和子と光一郎にはびっくりだ。TVに似せるなら「本から飛び出してくるような」人物ばかりだった。

なぜ振り返ったときには一瞬なのだろう。
あの歳月が、本当に同じ一分一秒毎に、
すべて連続していたなんて、どうして信じられるだろうか。

夜のピクニックは高校生活最後の一大イベント「歩行祭」に参加する、普通の高校生の物語だ。しかし、彼らは彼らなりに一生懸命考えていて、ときには若さで押しのけてしまうのだが、しっかりと歩こうとする。ただ単に夜のピクニックの話のはずなのに、なんでこんな気持ちになるのだろう。なんで、夜のピクニックを歩く青年たちのように、この本が終わるのを悲しく思うのだろう。

違うよ。覚えていてくれなくていい。忘れていい。あたしは覚えているもの。

そうだね。だからこんなに悲しくて、うれしいんだ。
僕もずっと覚えているよ。
*
全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本 本屋大賞に選ばれた「夜のピクニック – 恩田陸」。前に「博士の愛した数式」をP氏に紹介してもらったが、本屋の店員さんに選ばれる作家は本当に幸せだと思う。恩田陸さんも本当にうれしかったんだろうな。

コメント

  1. akira より:

    トラックバックありがとうございます。
    僕も、中学・高校時代は本をほとんど読まずにいて、大学時代に読書に戻り、ブログを始めてから第3次読書ブームという感じです。
    恩田さんの本は、青春時代のもどかしさと、本に対する愛情が感じられるのが気に入っています。

  2. Kamijo より:

    トラックバックありがとうございます。
    ほんとうにただ歩くだけの話なんですよね。
    あらすじを人に説明して薦められる本ではないので、ただもう「ぼくを信じて読んで」と言うしかありません。
    こういう微妙な感じをそのまま作品にして、しかも多くの人に共感しえる作品に出来るというのが、恩田陸の卓越したところだと思います。

  3. だい より:

    akiraさんこんにちわ。昨日の夜に読みきって、興奮して眠れませんでした。まだまだ読んでいない本がたくさんあるんだな?と思いました。改めて本というのはすごいものですね?

  4. だい より:

    Kamijoさんこんにちは。恩田陸さんの本は始めて読んだのですが、おっしゃるとおり共感してしまいました。夜の思い出というのもまた不思議なものですね?。

  5. siuka より:

    はじめまして、siukaと申します。
    当方へのトラックバックありがとうございました。
    この本が本屋大賞に選ばれた理由がよくわかる気がします。自分も恩田作品をひとつだけ誰かに薦めるとしたら、今はこの作品を薦めたいと思います。

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