沈むさかな – 式田ティエン

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沈むさかな
宝島社文庫「沈むさかな - 式田ティエン」

沈むさかな – 式田ティエン 第1回このミステリーがすごい!大賞 優秀賞受賞作品
2人称で語られる湘南の物語。
きみは湘南にたどり着き、始まったばかりの夏の日差しに顔をしかめる。きみの働く中華料理屋に、ピアスをあけた大柄な男がやってくる。男はきみにむかってこう話しかける。誰にも聞こえないように、きみによく聞こえるように。
「お前の親父さんの死んだ理由を知りたくないか?」
きみの父親は、あるスキャンダルに巻き込まれ急死していた。この日から、きみの周りは大きく動き出す。謎の多い海辺のクラブ。ダイビング。湘南の海。きみは自分の中の扉が開いたことに気がつく。これはきみにとって大きな変化だ。きみはゆっくりと泳ぎはじめる。君を包む海は、少しきみをしめつけるように残酷に感じる。
きみはどんどん沈んでいく。
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ミステリー大賞の作品なんだけど、ミステリーというより、文学として読めるような気がした。ミステリーの要素はとても自然で、驚くような事実であっても、主人公のカズのようにうまく反応できない。
美しい海中の描写の中で、自分がどんどん沈んでいくようだった。
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ここからは余談。
10年以上、逢えなかった友達が、昨日子供を生んだ。
よくがんばったね。
そんな彼女を思い出すと、こんな文章が浮かんだ。
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きみはなぜ逃げるのかとボクに聞く。
ボクは何も答えず、少しいらついた表情できみをにらむ。
きみは泣きながらうったえかける。
しかし、2人だけの空間となりつつある場所であっても、ボクには何も聞こえない。
そして、ボクはきみを背に歩き出す。
遠くからきみの声が聞こえる気がする。
でも振り向かない。
ボクはしばらく歩き続ける。
遠くからまだ何か聞こえる。
きみは気にせずに歩き続ける。
ある時、いつも聞こえていた声が聞こえなくなる。
まだきみは気がつかない。
やがて気がつき・・・
初めてきみは振り返る・・・
でも、そこには誰もいない。